開発プロジェクト

ZAM®ストーリーPart1

2000年7月、「100年住宅を目指す積水化学工業(株)の鉄骨系ユニット住宅“セキスイハイム”の次世代住宅構造材としてZAM®が全面採用された」これを報じる新聞記事を営業担当の住田芳浩は食い入るように何度も読み返した。

世界初、次世代の溶融めっき鋼板:溶融Zn-6%Al-3%Mg合金めっき鋼板ZAM®。

それは日新製鋼が2000年に完成した高耐食性鋼板である。

その頃、川口靖隆は、東予製造所でZAM®の本格量産に向け最後の調整に汗を流していた。 開発のプロジェクト・リーダー、安藤敦司は量産されるZAM®を見つめながら、ふとこの数年間を振り返っていた。 これは、3%Mgを見つけ出し、量産技術へと導き、世に送り出すために奔走した男たちのストーリーである。

1.「ガルタイト」から十数年、世界の最先端へ。

ZAM® 1995年、世界中の鉄鋼メーカーは、亜鉛-アルミ合金めっき鋼板に代わるより耐食性に優れた次世代のめっき鋼板を模索していた。 それから5年後、日新製鋼は新製品と呼べる世界初の溶融亜鉛-アルミ-マグネシウム合金めっき鋼板:ZAM®を誕生させた。 それは、溶融めっき分野で世界有数の実力があるからこそできたことだと、ZAM®開発プロジェクト・リーダーとなった安藤敦司はいう。

安藤が、大学院修士課程を終え、入社したのは1985年。 入社と同時に新製品、溶融亜鉛-アルミ合金めっき鋼板「ガルタイト」の認定テストに追われた。 これこそ、今につながる“セキスイハイム”へのポスト「ガルタイト」導入認定テストだった。

Story Indexへ戻る

2.ターゲットは決まっていた。

「住宅建材でいこう」。 ポスト「ガルタイト」、次世代溶融めっき鋼板の市場参入分野は決まっていた。 ユニット住宅の構造材は板厚0.6~9.0ミリの鋼板を使う。需要が大きく、日新製鋼の製造ラインの優位性が保てるこの分野をターゲットにZAM®開発プロジェクトは始まった。 折しも最大の需要家である積水化学工業(株)の次世代住宅構想が発表されるなど、住宅の長寿命化や森林資源保護として、鉄骨系ユニット住宅が評価され、着々とシェアを伸ばしていた。

溶融アルミめっき鋼板「アルスター」や真空蒸着めっきの研究を経て90年頃から再び「ガルタイト」の製造技術開発に戻っていた安藤は、今度はリーダーとして新製品開発プロジェクトに携わることになった。 「ガルタイトから始まり、その技術の延長にあるZAM®の開発を手がける。 入社以来の16年間はZAM®を生み出すためにあったような気がする」と安藤はいう。 95年、安藤を中心に表面処理研究部 表面処理第一研究チームの試行錯誤がスタートした。

安藤氏

表面処理第一研究チーム
安藤氏
現在:グループ開発本部
   副本部長

Story Indexへ戻る

3.配合比率の最適化を探る日々。

「実は30年以上前から、亜鉛にマグネシウムを加えると耐食性を向上できることはわかっていた。 しかしどこも実用化できないでいた」。 この安藤の言葉は、名だたる鉄鋼メーカーが、相当以前から取り組んでは諦めていたことを意味している。

その原因は、マグネシウムの酸化しやすいという物性にあった。 実験室で小規模の溶融亜鉛-マグネシウムめっきを施すことはできても、量産は諦めざるを得なかったのだ。 溶融めっきとは簡単にいえば、めっき金属を溶かした釜の中に鋼材を漬け、引き上げる方法だ。 このとき溶けたマグネシウムがワルサをするのだ。 しかし、開発チームは、アルミニウムを添加することで解決できることを発見した。 ただ、この配合が難しい。 各金属の配合比率の最適値を見つけ出す実験が繰り返された。 製造しやすく、耐食性を最大限発揮させる最適化への試行錯誤だ。

製品性能に確信が持てた開発チームは、今度は実機ライン製造に向け、製造条件の最適値を探るために、研究所別棟の実験プラントを運転し、生産技術データを採取する日々が続いた。 そして、技術的な目処がついた96年暮れ、翌年5月に試験製造することが決定した。

Story Indexへ戻る

4.堺製造所挙げて試験製造へ。

その頃、安藤たち開発チームに隣接する堺製造所では、実機ラインでの試験製造に向けてプロジェクトチームが組まれた。 責任者は、川口靖隆、製造技術畑12年の技術課長である。 安藤より1年早い84年入社組で、大学では応用化学を専攻。 現場が好きで入社し、油のついた作業着にプライドを持つ根っからの技術屋だ。

「ZAM®の研究開発は、月例の社内の研究報告会で知らされていた。日新製鋼にとって、久々の新製品。否応無しに期待は高まっていた」、 これは川口だけでない。 日新製鋼全体の期待を集めていた。 試験製造の責任者を任されてから、川口は、頻繁に実験プラントの安藤のもとに足を運んで、製造技術について議論を戦わせている。

試験製造には、1GALラインが当てられることになっていた。 通常は、溶融亜鉛めっきと溶融アルミめっき鋼板を製造するラインだ。 何と言っても新しいめっきである。 めっき槽(ポット)の温度も、鋼板の予熱温度も、冷却条件も、すべてが今までとは異なる。 様々な準備や50項目以上の調整が必要になる。 試験製造の前後使えなくなる1GALでの生産の振り分け調整もある。 川口の指揮の下、設備技術、生産管理、品質管理、生産計画、協力会社総がかりで準備を進めた。

Story Indexへ戻る

5.まさかの危機。

5月29日、試験製造日。 当日に向け、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムは既にポットに投入してある。 準備は万全だった。 その直前の週末、川口はたまたま外出していた。 その時電話は鳴った。 会社からであった。 不測の事態は留守番電話に録音された。

帰宅した川口は伝言を聞くなり、すぐさま会社に飛んだ。 「まさか」。 そのまさか、が起こってしまったのだ。 原因はマグネシウムにあった。 安藤も駆けつけていた。 このままでは、木曜日の試験製造は無理だ。 次々に駆けつけるプロジェクトメンバーとともに様々な打開策を講じてみるが、事態が好転する気配はなかった。 安藤をはじめ、川口や試験製造チームも徹夜だった。 「もう、やれない。体中の力が抜けるようだった」 と川口は振り返る。 「何とか粘ってみよう」上司の言葉が、立ち直らせた。

川口氏

試験製造チーム 川口氏
現在:技術統括部
   部長

予定通り試験製造は始まった。 「最初のめっきが出てくるまでは、不安でしかたがなかった。疵は出てないか、ムラはないかと……。出来上がっためっきは、今までにみたこともない美しい外観だった」 その直後、川口に製造所長が歩み寄り、握手を求めた。「よかったじゃないか……」

あの時の嬉しさは、一生忘れないだろうと川口はいう。 その川口は、ZAM®をはじめ各種溶融めっき鋼板を製造する最新鋭の東予製造所の立ち上げに赴任した(2000年竣工)。
自ら設計に携わっためっきラインが、月産1万トンのZAM®を生産するのを見届けることとなった。 現在は、本社技術総括を経て堺製造所に戻り、品質技術部部長として新たな指揮をとっている。

Story Indexへ戻る

6.サンプルとデータ、そして粘り。

実機でのサンプルを待ちにまっていた一人に、住宅・建材販売部・住宅建材チームの住田芳浩がいる。 93年入社。ちょうどZAM®の開発が本格的に始まった頃だ。 入社以来、住宅建材販売で“セキスイハイム”の積水化学工業(株)の営業を担当。

量産の目処がついた98年夏頃から、販売を支援する開発部隊「住宅建材総合開発チーム」と共に、得意先への説明資料の準備を本格的に始め、99年秋から、本格的なセールスに入った。 ポスト「ガルタイト」として“セキスイハイム”に採用してもらうこと。 ZAM®を評価してくれる住宅メーカー、それは「ガルタイト」を全面的に採用してくれている積水化学工業(株)がベストだ。 それが住宅建材チームの一致した考えだった。

住田芳浩氏

建材・鋼板販売部
住宅建材チーム
住田芳浩氏

住宅の長寿命化トレンドがあるとはいえ、本格的な展開はまだ先と考えている得意先にどう売り込むか。 しかも新製品で実績もない。 現状の「ガルタイト」でも耐久性は保証できている。 そこで住田らは、表面処理研究部の安藤たちの全面的協力のもと、住宅構造材として求められる性能試験結果を、得意先にアピールできるようにまとめ、ZAM®の高耐食性から生まれる住宅そのものの耐久性を根気よく訴えていった。

折しも住宅新法の施行による住宅の性能表示の義務づけを前に、住宅メーカー全体に住宅の長寿化戦略を前倒しにしようという空気が広がり、これが追い風となったこともあり、ZAM®への期待と評価は一気に高まった。 とりわけ得意先の技術者からZAM®への高い評価をもらえたことはなにより心強かったと住田はいう。

99年秋を過ぎた頃から、得意先の指定条件による双方同時の評価テストが始まり、ZAM®採用に向け一気に動きはじめた。 どうしても、2000年5月から操業を始める東予製造所のラインでZAM®の本格製造を開始したい。 この強い思いが堺では評価テストに、東京では営業活動にそれぞれの人間を駆り立てていた。

Story Indexへ戻る

7.そしてついにその時はきた。

2000年7月、積水化学工業(株)の“セキスイハイム”にZAM®は構造材として全面採用されることが決まった。 鉄の新しい用途がまたひとつ大きく拡大した瞬間だった。

ZAM®の用途は、住宅建材だけに止まらない。 身の回りを改めて見回してほしい。 車、電車、家電製品、ビル、橋、ありとあらゆるところに鉄が使われている。 地球上で最も身近な金属、しかもリサイクルが容易で、最終的には完全に土に帰る鉄。 その素材の可能性は無限に拡がり続ける。

なぜなら、“鉄”に魅せられ、さらに可能性を引き出そうという男たちと、その集団がいるからである。

Story Indexへ戻る